Interview
Issue : 64
TRUCK FURNITURE / S.T,N.E. オーナー・黄瀬徳彦| 削ぎ落とすことで見えてくる、抜け感のある暮らし
家に入ると目にとまる、大きな窓からの光と、左官仕上げの壁。近づくほどに立ち上がる素材の奥行きは、空間をじんわりと満たしていく。「これ見よがしなことは一切ない」と、話す黄瀬さん。余分なものを削ぎ落とした先に残るのは、子どもの頃から変わらない「自分の好き」だけ。その一貫した審美眼が、家にも家具にも、暮らしのあらゆるところにも息づいている。
Profile
黄瀬徳彦
1997年に、家具屋「TRUCK FURNITURE」を創業以来、家具デザイナーとして、素材感を生かした普遍的な家具を作り続ける。2024年、原点回帰としてソロレーベル「S.T,N.E.(Same TRUCK, New Engine)」を始動。「削ぎ落とし、シンプルに。さらに上質に」を掲げ、自身の今を投影した、より研ぎ澄まされた家具と世界観を追求している。
紅茶とビスケットで、土地の声を聞く
大阪・吹田市。千里ニュータウンの一角に、黄瀬さんの自邸はある。
新たに自分で家を建てようと、ふらりと土地を探し始めた。そして、インターネットでたまたま見つけたこの場所に、来てすぐに惹かれた。
「千里ニュータウンって、日本で初めてできたニュータウンなんです。
1970年の大阪万博に合わせて計画された街で、道路も広くて、街路樹も多くて、緑もたくさんある。
以前、ロサンゼルスに5年ぐらいロフトを借りてたんですけど、
このエリアに入った途端、そのロサンゼルスの気持ちのいい住宅街のような空気感があったんです。
こんなとこ大阪にあるんだ、とちょっとびっくりしました」
土地を決めたあと、黄瀬さんは何度もその場所に通った。
まだ草しか生えていない更地に、朝早くから椅子と紅茶とビスケットを持って行き、ただ座って、朝日を感じた。
「日の出の前から来て、そこに座って。朝はこういう感じなんだというところからレイアウトを決めていったんです。キッチンが一番朝日が当たるところにしたいな、とか」

道路面より少し高い位置に家が建つ。庭に腰掛けても通行人の視線が気にならない。前の道をたまに通るバスの音が、のどかに聞こえる。緩くカーブしながら坂が下っていく風景。
そのすべてが心地いい。
「引き算」へと至った、30年の積み重ね
自分でできる範囲での家づくりのつもりが「結構大層な家」になったのは、黄瀬さんが30年近くにわたって空間と素材を作り続けてきたからかもしれない。
「TRUCK」を始める前は1人で5年間家具を作ってきた。
その後は古いビルの改装や新築で、店や自宅も手がけるーー気づけば新築は、ここで7軒目となる。
ただ、今の家のコンセプトは、かつての”足し算”とは真逆だという。
「昔は家も家具も足し算をしながら考えていた気がします。当時はそうしないと自分の欲しいものが手に入らなかった。
でも今は、海外でしか買えなかったスイッチなども、ネットで簡単に手に入る。そうなると、自分では今更もういいかなと思ってしまう。
あれこれと、これでもかというくらいにやってきたので、ぐるっと回って “あえて何もしていない” 風が心地よくなっています」
一方で、素材感には奥行きがある。
壁は左官仕上げで、場所によって粗さが違う。床も左官。金物は、コーティングのないソリッドの真鍮で統一し、経年の黒ずみも込みで選んでいる。窓のサッシは全部手作りで、4メートル以上の高さにある目に見えないネジまで、マイナスを使っている。
「見えないところまでちゃんと意識を持ってやるっていうことが大切だし、やらないと逆に気持ち悪い。そういう誰も気づかないディテールからにじみ出るものもあると思っています。
たとえ見えない部分でも嘘なことはしたくない。家も家具も、基本は一緒なんです」
家作りと並行して生まれた家具ブランド「S.T,N.E.」も、静かに深い。
「 S.T,N.E. 」 Morgan Sofa —
試作品に座り映画を観終えたとき、わずかな硬さと疲れを覚える。完成直前で見直し、納得のいく一脚へ。
新レーベル「 S.T,N.E. 」の冊子。
この家で約2ヶ月、早朝の光を追って撮影を重ねる。数ページの構想は、気づけば200ページへ。
道端に落ちているものも、有名な家具も、同じ目で見る
家の中には拾ってきた古い缶や、路上で見つけた何かの部品が、さりげなく置かれている。
好きなデザイナーや参考にした建築を問うと「名前でものを見ていないんです」という答えが返ってきた。
「その辺の道端に落ちてるものを拾うのと、有名な家具を見るのと、僕にとってはイコールなんです」
友人からのあだ名は「スクワール(リス)」。どこに行っても、他の人が見向きもしないものに美を見出し、持ち帰ってしまう。
「工業地帯のような荒んだ場所でも、枯れた植物などちょっと美しいものがあったりするんです。そういうのも見つけてしまうんです」
その目は子どもの頃からだった。小学校6年生の春休みに、木材を買ってきて、自分の部屋の壁を板張りにした。電球色の明かりを灯して、そこで本を読むのを楽しんだ。
「そういう気分感が好きっていうのは、もう小さい時からですね」

欲しいものだけを、作り続ける
家の中で一番好きな場所はどこかと聞くと、「何か所もあるんです」と笑う。
サンルームで外を眺めるのも好きだし、キッチンのカウンターに立っているのも。愛犬・バビーとの散歩を終えた後、2階のストレッチルームで山々を眺めながら体を動かすのも、毎朝の心地よい習慣だ。
少しだけ残念なのは、朝日がきれいに差し込む反面、西日が十分に入らないこと。若い頃からオートバイで夕日を追いかけていたほど、西日が好きだった。
コペンハーゲンを旅したとき、夏は夜10時まで西日の時間が続き、川辺でみんながワインを飲みながらその光を楽しんでいた。
「いいなあ、と思って僕もそこに座っていた。家具やインテリアを見にいったのに、そういうところばっかり気になってしまって(笑)」

「単純に自分が欲しいものだけを作って生きてこれているのは、本当にラッキーだなと思います」
自分に嘘をつかず、ただ欲しいものを作り続けてきた。
この家や家具も、その積み重ねそのものだ。
pick up item

庭に置いたガーデンチェアは、黄瀬さんにとって心地よい居場所のひとつ。
天気のいい日は朝、ここに座ってコーヒーを飲むのが日課になっている。東向きのため、朝日がふんだんに降り注ぎ、1日の活力を目覚めさせてくれる。
太陽の光とともに動きながら過ごすのが、黄瀬さんのスタイルでもある。
Editor’s Voice
-
家中に気持ちいい場所がいくつもある、と話す黄瀬さんの言葉をまさに実感する取材だった。もっともすごいと思ったのは、ものや空間を見る目だ。見過ごしてしまいそうなものにもちゃんとフォーカスして、人によっては不要と思えるもののなかにも美を見出す。この黄瀬さんだけが持つ特別な目を借りて、世界を眺めてみたいものだと思った。
Wakako Miyake(Writer)
Staff Credit
Written by Wakako Miyake
Photographed by Hinano Kimoto