Interview

Issue : 31

monshiroデザイナー・関谷聡美|住まいと共に家族の生き方が開く、自然が主役の家づくり

日本のみならず、ヨーロッパに熱烈なファンが多いジュエリーブランド「monshiro」のデザイナー・関谷聡美さん。東京の生活から離れ、新潟の山暮らしで得た仕事以上に楽しい自然の営み。そして、そこから発展していく今後の展望と仕事の新しい方向性。家族の理想が詰まった自然が主役の家づくりと、新しい生き方を伺った。

Profile

関谷聡美

世界のヴィンテージパーツを用いた繊細な細工が美しいジュエリー「monshiro」のデザイナー。自然と調和した暮らしから生まれる、ボタニカルや生物をモチーフにした絵本のような世界観が人気。接着剤を使わずにワイヤーのみで仕上げるため、時代を経たとき、新しい材料と組み合わせられることも評価を得ている。

「家に居ても外を感じたい」。
夫婦共通の価値観から始まった理想郷づくり。

新潟駅から車で約20分。のどかな越後平野をすり抜け、標高600mほどの秋葉山に入ると、どこか日本家屋をイメージさせる平屋に出合う。ここはジュエリーデザイナー・関谷聡美さんの住まい。2015年、東京の自由が丘から新潟の山に移住した際、夫婦で念願だった一軒家を荒野に建てた。



 

 

 

 

 

「もともと、夫も私も自然が大好きなんです。東京に住んでいた頃はマンション暮らしでしたが、狭いベランダに植物を置いて、ギューギューになりながらもそこでBBQを楽しむような、とにかく家に居ても外を感じたい。そんな夫婦でした」

新潟の山へ移住を決意したのは、子どもが生まれてから。「森のようちえん」という園舎を持たない幼稚園を知ったことから始まる。

 

北欧には自然活動こそ幼児期の心身の発達に良い影響を与えるとされ、野外活動の指導者のもと、自然の中で活動する幼稚園が多い。危険がつきものの森の中で、五感を使って自分の限界を学ぶのだ。

 

「幼い頃に五感を使って学んだことは、大人になっても忘れない」。そう感じた関谷夫婦は、幼稚園のために移住を決意する。

敷地内で最も大切にしたのは“庭の在り方”。

新たに建てた住まいは、ずっと憧れていた平屋。「住居スペースより、できる限り庭を広くしたい。自然と接する面積を増やしたい」。それが二人の希望だった。

 

「理想は、映画『ベスト・キッド』に出てくるミヤギさんの自宅。庭の真ん中にデッキを設け、舞台のようにしたかった。そして、母屋から裸足で渡れるようにしよう、と」。

 

リビングからいつでも庭が見え、自由に外へアクセスできる。外と中が遊歩道で繋がるような。

主役はあくまでも建物ではなく、外の自然界の営みだ。

そうして完成した住まいは、理想通り、家族みんなを自然が包み込む場所となった。

 

庭で畑を耕し、今では季節の野菜がほぼ収穫できるほど。夏はキュウリ、トマト、ナス、ピーマン、オクラなど、食卓に出したい野菜がひと通り揃う。

 

毎日のお茶やボディケアに使うハーブも庭から穫れるため、帰宅するとまず庭いじりをするのが関谷さんのルーティン。

年月をかける喜びを知る、生活の基盤が外にある暮らし。

うれしいことに、引っ越した年に植えた木は、ここ数年で大きく育った。最初はうんともすんとも育たなかったため、土が悪いのかと心配したものの、満を侍したようにグングン伸びる。その様子から、「土壌とは年月をかけて豊かになるもの」と知った。

 

何事も一朝一夕では完成しない。それは自然相手なら尚更。

「子どもたちは外から帰宅すると、まず庭に出ます。デッキで宿題をしたり、おやつを食べたり。歯磨きするのも外なんです」。家族みんな、生活の基盤が外。

 

夏になると庭にタープを張り、プロジェクターで映画を見る。デッキに天体望遠鏡を置いて、季節の星空を観測する。冬になると雪かきは家族みんなの仕事。納屋の軒に干し柿を吊るすのは冬の風物詩だ。

 

四季よりも、もっと細かい二十四節気がここにはある。

外と繋がる、家族の寝室。
家具の買い付けをするご主人が世界各地で出合った様々な国のインテリアやファブリックが並ぶ。

住環境を変えたことで手に入った、ジュエリーの在り方。

そんな暮らしを送ることで、関谷さんには大きな変化があった。生業としているジュエリーのデザインが変わってきたのだ。



 

 

 

 

「それまで私のジュエリーには、明確に対象物がありました。花なら何の花か、葉なら何の葉か。それがここ最近、どんどん抽象的になってきて、輪郭がなくなってきたように思います」

 

何をモチーフにするかは重要ではない。日々の暮らしの、目の奥に残った景色を切り取るようになったという。

さらに、仕事以外の自分の時間ができた。東京では周囲が夜も仕事していたため、「自分もやらなくては」と無意識に思っていたが、ここでは仕事が終わったあとにやりたいことが山程あり、それに向き合う心の余白も生まれたという。

次々沸き起こる、これからの自分たちのやりたいこと。

学童の隣にアトリエを設けたことで、仕事中に子どもたちの様子がわかるようになった。古い日本家屋をリノベーションし、蔵では予約制の美容サロンも運営している。

 

週末には友人たちとどっぷり畑で過ごすため、デンマークの「コロニーヘーヴ」を模し、ひと区画に小屋と庭が備わるコミュニティーガーデンを作った。

 

海外への移住も視野に入れて、英語やフランス語の勉強も始めた。夜9時までだった関谷さんとご主人の仕事は、今や夕方5時に終わる。

家が外に開かれることで、気持ちも外に開く。

 

今までなかったような発想や閃きをもらうことを、関谷さんの「自然と共生する家づくり」から教えてもらった。

pick up item

Stilnovoのライト

ご主人がイタリアで買い付けてきたという、スティルノボのライト。異素材の組み合わせが好きで、家屋の木材に鉄やガラスのインテリアを合わせているそう。

 

木材と自然が家のほとんどを占める空間にあえて異素材でアイコニックなアイテムを合わせることで、ほっこりしすぎない洗練された印象をつくり出すことが、このアイテムに見てとれた。

  • Self Photo8

    関谷ご夫婦が撮る、旅と暮らしの一コマ。

    まずは旅先のベルギーでの3枚。1枚目はアントワープにあるAxcel Vervoodt のギャラリー。テキスタイルの質感や色味、マテリアルの妙、光と影、空間の使い方が印象的だったという。2~3枚目は牧場にある納屋をリノベーションした住宅。内外垣根のない、自然と調和した空間から家づくりのヒントを得たそう。

     

    4枚目からは四季折々の暮らしの一コマ。収穫用の籠を持っておやつを探しに庭へ出る初夏。かまくらを作り焚き火を起こし、外での食事を楽しむ冬。季節問わず朝から夜まで外で過ごすのが、関谷家の日常風景。

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Editor’s Voice

  • 「monshiro」のデザイナー・関谷聡美さんと知り合ったのはもう10年ほど前だ。ちょうど新潟に引っ越された頃で、当時の関谷さんのジュエリーをよく覚えている。虫や花を多角的に捉えるのが長けた人だと感じていた。その後、山麓から生み出されるデザインはどんどん変化し、季節の風や色、光を感覚的に捉え、デザインに昇華していった。何かをはっきり描くのではなく、自然界からもらう煌めきや力強さをジュエリーに落とし込む。今回ご自宅を取材させていただき、その暮らしぶりから、自然の恵みでデザインが成り立っていることを知った。外の世界と密接につながる住まいでは、ありあまるほど自然から恩恵を受け、関谷さんはジュエリーへと変換させている。

    Tokiko Nitta(Writer)

Staff Credit

Written by Tokiko Nitta

Photographed by Eichi Tano

  • For your information

    yadoが提案する “自然とつながる暮らし”。

    yado houseから“自然と溶け合う暮らし”をテーマにした住宅「Roofscape inspired by makina nakijin」が誕生。

    最大の特徴はプライベートの個室が、軒でつながり、自然と溶け込むランドスケープ。

     

    Roofscapeで、内と外が溶け合う旅先のような暮らしを。

About

泊まるように暮らす

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食べる、寝る、入浴する。
家と宿、それらがたとえ行為としては同じでも、旅先の宿に豊かさを感じるのはなぜなのか?
そんなひとつの問いから、yadoは生まれました。

家に居ながらにして、時間の移ろいや風景の心地よさを感じられる空間。
収納の徹底的な工夫による、ノイズのない心地よい余白……。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅のような時間を日常にも。

個人住宅を通して、そんな日々をより身近に実現します。