Interview

Issue : 40

White Mountaineeringデザイナー・相澤陽介|アナログな過ごし方で、研ぎ澄まされていく住まい

“泊まるように暮らす”人に聞く、暮らしの哲学。ファッションブランド「White Mountaineering(ホワイトマウンテニアリング)」のデザイナー・相澤陽介さんを取材。東京から適度な距離感があり、自然の美しさと厳しさが共存する軽井沢で、環境に敬意を払って暮らす相澤さんの山荘を訪問した。

Profile

相澤陽介

2006年に自身のブランド「White Mountaineering」をスタート。これまでに「Moncler W」や「BURTON THIRTEEN」など、さまざまなブランドのデザインを担当。J1リーグ所属の北海道コンサドーレ札幌の取締役兼クリエイティブ・ディレクターとしてチームのトータルディレクションも手がける。多摩美術大学や東北芸術工科大学の客員教授も務める。

山で暮らすことは、自分の実験場所をつくること

マイナス10度を下回る冬。外に出ると凍てつく地面が続く軽井沢。東京から車で約2時間にも関わらず、浅間山麓に広がるこの場所の冬は厳しい。

 

東京の自宅と仕事場とは別に、仕事の実験場とも言える別邸を手がけた相澤さん。場所は、雄大な自然と清らかな水資源、澄んだ空気がある軽井沢だ。

伺ったのは本格的な冷えが始まる一歩前の初冬。それでも日が暮れた途端、あっという間に寒さが走る。

「子供の頃からジュニアのアイスホッケーに取り組んでいたので、軽井沢のスケートリンクには頻繁に訪れていました。なので、このエリアは昔から馴染み深い場所でした」

機能とデザインの双方を見ることで広がるビジネス

“服を着るフィールドはすべてアウトドア”というコンセプトで、デザイン・実用性・技術の3要素を兼ね備えた「White Mountaineering」を2006年にスタートさせた相澤さん。

自身のブランドだけでなく、「モンクレール」や「アディダス」、「ラルディーニ」、現在ではイタリアの老舗スポーツウェアブランド「コルマー」など、数々のコラボレーションを手掛けてきた。

また、ヤマト運輸や自動車メーカーの制服をデザインするなど、活躍の場は多岐に渡る。その手腕は、ファッションの世界だけにとどまらない。

 

別荘を所有しながら収益を生み出すという画期的なビジネスモデル「NOT A HOTEL」のKITAKARUIZAWA BASEをディレクションしたことで、建築やインテリア業界からも多くの注目を集めた。

もともと建築や家具が好きだった相澤さんは、空間やプロダクトデザインの領域でも、今や独自の表現を発揮している。

玄関には段差がなく、そのまま地続きでリビングへ。ちなみに本棚下が靴置き場。この気負いのなさが、訪れる人をリラックスさせるファーストインプレッション。

創造が始まり、生まれ続ける場所を持つこと

昔から相澤さんはウィンタースポーツが好きだったという。幼少期のアイスホッケーに始まり、今では冬になるとスノーボードに勤しむのが家族のライフワークだ。

山に入ると、季節の移り変わりを五感で察知できる。父親が登山やキャンプによく連れて行ってくれたおかげで、子供の頃から山での過ごし方が身についていた。

 

自身のブランドも、活躍するフィールドは野外。過酷な状況であればあるほど、体を守るギアの本分がわかってくる。自然が近い場所で過ごすということは、自分のウェアの可能性を試せる絶好の場があること。

 

別邸の書斎には、新作のアウターがいくつも並んでいた。焚き火をして、バイクに乗り、雪山に登り、さまざまなシチュエーションでウェアの耐久性や実用性を図る。

こんなにも素晴らしい実験場はない。

書斎の奥にさりげなく置かれたアコースティックベース。周囲に人がいない軽井沢では、楽器を弾くのも楽しみのひとつ。

人間関係も環境にも無駄なノイズがない。デザインに没入できる重要性

アイテムを多角的に試せる他に、相澤さんがこの場所で得るものはなんだろうか?

 

週末になると、軽井沢まで足を運ぶのが相澤さんのルーティン。一人で訪れることもあれば、家族や友人たちと過ごす日もある。

便利で高効率な都会暮らしでは見えてこなかったものが、ここでは自然と視界に入った。

 

例えば、人間関係も然り。ファッションという水ものの世界で、縦や横のつながりを気にしない暮らしは貴重だ。

狭い業界内で生きるより、地方で生活することは多彩なジャンルの人との交流を生む。そこでの暮らしの知恵も格段に増えた。

誰にも気兼ねがない生活のぶん、不便なことさえ工夫とアイデアにつながる。軽井沢で過ごしたのちに東京へ戻ると、その利便性を改めて思い知るが、おかげで複眼的な思考も手に入る。

 

それは、アーティストではなく、多岐に渡ってブランドを手がけるディレクターやアドバイザーとしての相澤さんに必要な視点だ。

外の寒さと向き合える北欧デザイン

築40年でボロボロだった山小屋は、友人のインテリアデザイナー・佐々木一也氏と共に1年半かけて改装した。建物の枠組みと大きな丸太の柱を残した以外は、すべてフルリノベーションだ。

 

インスピレーションを得る場所に華美な装飾は不要だと考え、素材の持つ表情を大切にしたという。とはいえ、内装は決して簡素ではなく、綺麗すぎることもない。

山小屋と相性がいい北欧デザインを意識して、木やモルタル、鉄など、異素材を要所によって使い分け、メリハリのある空間に仕上げた。

 

さらに、外の寒さが過酷なだけに、室内の快適性にもこだわった。木造建築の底冷え対策に床暖を入れ、化石燃料を使わないバイオエタノールの暖炉も導入。

窓の向こうの冬景色を眺めながら、部屋では素足で過ごせるという心地よさは重要だった。

梯子を使って上がるロフトは、布団1枚が敷けるスペース。秘密基地のような中二階で眠るときもあれば、リビングの床で寝るときも。

完成した時が美しさのピークではなく、年を重ねていくほどに味わいが増す建物。そのデザインソースは、今まで旅した世界の山小屋から見た景色だ。

 

無駄なものを削ぎ落として、気心の知れた数人と過ごす大きすぎない空間。ほどよくコンパクトなヒュッテこそ、ちょうどいいサイズ感だと考えた。

想像力を駆使するキッチンでこだわったこと

相澤さんはキッチンに立つことが多い。軽井沢を訪れたら、料理はほぼ相澤さんが担当。山荘を訪れたゲストにも料理を振る舞う。東京なら簡単に済ませる食事でも、ここでは凝った料理にチャレンジしたくなるという。

だからこそ、キッチンは相澤さんの使いやすい設計にこだわった。

 

調理しやすい天板の高さ、キッチンに立った時に眺められるリビングや窓の景色、掃除が簡単なシンプルな構造。

調理中に絶好のポジションで音楽が聴けるように、スピーカーの設置はキッチンから真正面の壁。

キッチンに立つと、空間に広がった音が心地よく拾える。

また、東京ではサブスクで気軽に音楽を聴くものの、軽井沢ではアナログに徹している。

その日の天候や気分、来客に合わせてレコードを選ぶ。ターンテーブルにレコードを置き、ゆっくりと針を落とす。

 

日が沈んで辺りが静まりかえる頃、レコードの音は山荘に溶け込んでいく。

実際にワインをいただきながらこの空間に身を置くと、レコードから流れる独特の音が水のように肌に馴染んだ。

ここでは、スピーディーに情報を精査する必要はない。

お酒を飲みながらゆっくり自然を眺め、穏やかな焚き火に安堵することを知る。朝日が差し込むとき、鳥の鳴き声に耳を澄ますのもいい。

 

夜は怖いくらいに静寂で、ちょっとした野外の音にも敏感になるが、それもごく自然なこと。真っ暗な暗闇に浮かぶ月や星のエネルギーは、都会の比ではない。

野生に触れ、研ぎ澄まされていくことで、受ける恩恵は計り知れないのだそう。

 

東京の自宅は、家族と暮らすためのもの。仕事場は実際に手を動かす場所。

自然に囲まれたこの軽井沢では、相澤さんのモチベーションやインスピレーションにつながる場として成り立っている。

「実際、ここで一人で仕事をすると、東京の仕事場より何倍も捗ります」と話す相澤さん。

 

東京やファッション業界にこだわらず、自分の活動するフィールドを変えていくことで、相澤さんの仕事は常に進化してきた。

建築やスポーツの世界に参入し、学生たちの教育の現場にも入る。枠に囚われない仕事のスタイルは、向き合い方がどこか職人気質だ。

コールマンのファイヤーディスクの上にスウェーデントーチを乗せて。火を眺めているだけで、お酒のつまみになる。

ちなみに、相澤さんと北欧家具は切っても切り離せない関係。

 

大学時代に染織を学んでいた相澤さんは、当時から北欧のテキスタイルに興味があり、憧れていたという。

 

東京で自宅を建てた際も、デンマークを代表するフリッツハンセンのAXチェアを購入した。今では東京の自宅・仕事場・軽井沢の山荘、すべてにポールケア・ホルムの家具を置いている。

 

三角屋根を取り入れて大きく空間を確保できたリビングには、北欧のコンテンポラリーデザインがよく似合っていた。

ダイニングテーブルで美しく目を引くのは、フリッツハンセンのグランプリチェア。こちらは自身のブランド「ホワイトマウンテニアリング」のモチーフとして使う寄木細工柄を、川島織物セルコンにジャガード織物で製作してもらったコラボ企画の作品だ。

寄木細工の緻密な図案が織物となって新たな魅力を携え、木脚と美しく融合している。北欧家具をこよなく愛し、使い続ける相澤さんだからこそ表現できたプロダクトデザイン。

また、書斎には、アルネヤコブセンのオックスフォードチェアがさりげなく佇む。こちらも、張り地のレザーに「ホワイトマウンテリアリング」で制作したグラフィックを融合させたコラボアイテムだ。

穏やかでやさしい木材の北欧家具に、力強いレザーが組み合わさることで、新しい見え方がある。

 

それは住まいも同様。三角屋根のやさしい木造建築に、異素材のレザーやメタルが要所ごとに入ることで、穏やかなだけではない洗練された空間に仕上がっている。

 

長年、世界中を旅して優れた建築を見て来た相澤さんの空間デザインに対する愛情が、軽井沢の山荘で見て取れた。

pick up item

アーミッシュキルト

独自のデザインから20世紀後期にモダンアートとして注目を集めたアーミッシュキルト。アーミッシュは今なお現代の技術を拒み、農耕や牧畜で自給自足の暮らしを送るドイツ系移民の人々だ。

 

ガスや電気、自動車を使わない彼らの暮らしから生まれた手仕事は、軽井沢の山荘によく似合う。相澤さんがペンシルバニアを旅した時、アーミッシュのギャラリーで一目見て気に入り、何度か通って売ってもらったもの。

 

Editor’s Voice

  • 相澤さんが東京で家族と暮らす住まいは木材を多用したクラフト感ある空間だそう。仕事場は、一転して黒を基調にしたシャープな空間という。その双方のテイストを融合させたのが軽井沢の山荘だ。家族や友人らとの憩いの場としての延長線にありながら、仕事のインスピレーションも沸く空間。木の穏やかさと、鉄やモルタルのシャープさが、絶妙なバランスで取り込まれている。3つの物件を実用的に使い分ける相澤さんの姿に、軽やかな精神性を垣間見たようだった。

    Tokiko Nitta(Writer)

Staff Credit

Written by Tokiko Nitta

Photographed by Hinano Kimoto

About

泊まるように暮らす

Living as if you are staying here.

食べる、寝る、入浴する。
家と宿、それらがたとえ行為としては同じでも、旅先の宿に豊かさを感じるのはなぜなのか?
そんなひとつの問いから、yadoは生まれました。

家に居ながらにして、時間の移ろいや風景の心地よさを感じられる空間。
収納の徹底的な工夫による、ノイズのない心地よい余白……。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅のような時間を日常にも。

個人住宅を通して、そんな日々をより身近に実現します。