Trip

Issue : 60

フィンランドの港町コトカで、いにしえの時代を感じながら
地元のサッカーチームを応援する。

写真家・かくたみほが綴る旅エッセイ。「スニラ・アアルト・ホームズ オープンハウス」を訪問した次の日に探索したのは、フィンランド東南部キュメンラークソ県に位置する港町コトカ。潮の香り漂う町に流れているのは、穏やかでゆったりとした時間だ。

Profile

かくたみほ

77年三重県生まれ。雑誌やweb記事の撮影を中心に活動。2006年よりフィンランドへ通って作品撮影を始め、写真集「MOIMOIそばにいる」、「光の粒子」を求龍堂より出版。旅をベースに、中判フィルムカメラで気持ちが高鳴るときを撮り続けている。動物と音楽が好き。

海と共にあったこの地を知るには
うってつけの海洋センターへ。

キュミ川とバルト海と合流する場所に位置するコトカは、木材・製紙、造船産業で発展し、船と昔から深い縁がある。

地元の住民に薦められたのが、コトカの海運の歴史を知ることができる「ヴェッラモ海洋センター」だ。

展示されているのは、船の模型、海事をテーマにした絵画、航海設備や灯台設備、船内用品、そして個々の船員の私物など、先史時代から現代に至るまでの約15,000点の品々で構成されている。

 

 

 

 

第一次ロシア・スウェーデン戦争で、ロシアのバルチック艦隊にスウェーデン側が大勝利を収めた「スヴィンスクスンドの海戦」(1790年)をテーマにした常設展では、コトカ沖で沈没した難破船の墓地を3Dで見ることができ、好きな人ははまりそうだなと興味深く観賞した。

 

また、ムーミンの小説出版から80周年を記念する体験型展示が開催(2026年3月7日まで)。「勇気・自由・愛」をテーマに、作者トーベ・ヤンソンの創作の根底にある価値観を紐解くような構成で、原画や資料も数多く展示され、大人が見ても楽しめる内容になっている。

トーベ・ヤンソンと公私ともにパートナーだったグラフィックデザイナーのトゥーリッキ・ピエティラが毎夏、孤島クルーヴハルに滞在するために使用していた小さなボート「ヴィクトリア」の展示もされていた。

 

 

 

 

実は私自身、2012年にクルーヴハルでの取材で、トーベとトゥーリッキがネームプレートをデザインしたという、ボート「アルベルティーナ」にのせてもらう幸運に恵まれた。

2つの船を製作したのはトーベの幼馴染のアルベルト・グスタフションだ。そのときにいつか「ヴィクトリアを見てみたい!」と思っていたので、13年ぶりに夢がコトカで叶った。

新鮮な食材を使ったフィンランドらしい
シンプルな料理をブランチで堪能。

ここ海洋センターに来たのはもうひとつ理由がある。

食堂の週末のブランチブッフェがおいしいと評判なのだ。

ライ麦生地にフィリングを詰めた、フィンランド名物「カレリアンピーラッカ(カレリアパイ)」や冷製のニシンのマスタードソースマリネ、ニシンのフライ、鴨ロースの冷製ハム、葉野菜や根菜、マッシュルームのサラダ、スープと、どれも食材の新鮮さがわかるシンプルな味わいのものばかり。

 

 

 

 

フィンランドは他の北欧の国と異なり、ガストロミーの分野ではあまり注目されていないが、食材を生かした素朴な料理は食べ疲れしないので私は好きだ。

ここでは野菜がたっぷりとれたのがうれしかった。

海外の旅ではビタミン不足になりがちで、新鮮な野菜が食べられるときにはがっつり摂取するようにしている。

 

 

 

 

 

24.40ユーロと日本円で4,500円前後なのが痺れるけど、飲み物やデザートも込みと考えたらまあ妥当だと思う。ちなみに平日のランチは定食を提供していて、そちらは13.70ユーロだそう。

町を散歩することで見えてくる
そこに住む人々のライフスタイル。

腹ごなしがてら、町中に散歩にくりだした。

コンドミニアムと思われる高層建物のバルコニーのシェードがカラフルな建物が多い。

そもそもシェードが必要なのは、地図を見るとわかるのだが、コトカの町が小さな島のようになっていて、海からの潮風が強いのも関係あるのかもしれない。

アアルトの影響を受けていそうな扉などもチェックして歩く。

 

 

 

 

 

私自身、自他ともに認める大の犬好きなので、犬を散歩している人を見かけるとつい撮影してしまう。

おじいちゃんたちが井戸端会議しているところで、好奇心たっぷりにこっちを見ていた大型犬がかわいくて、おじいちゃんたちに許しを請いて撮影させてもらった。

ヨーロッパの犬は、遊びたそうにしていても飛びついて来たりせずに礼儀正しい。

 

 

 

 

小型のボートやヨットが停められている波止場に出た。

トーベ・ヤンソンではないが、北欧では個人のボート所有率が非常に高く、フィンランドでは7人に1人と言われている。

 

 

 

 

 

孤島や湖のほとりに夏の間過ごす家があるサマーハウス文化があり、フィヨルド地形のためボートでの移動が便利なこともあるが、自然のなかでのクルージングや釣り、島めぐりなどのレジャーも日常的なことだからこそ、ボートが浸透しているのだろう。

そういう生活はちょっとうらやましい。

ちなみに冬になると海が凍って船が傷んでしまうため、別の場所に移動させるそうだ。

コトカに以前住んでいた友人から、「ポッソという揚げドーナツがおいしいので食べてみて」と言われていたので、売っていそうなお店を数軒のぞいてみるが、売り切れだったり、週末にしか作ってないなどの理由で見つけることが叶わなかった。

足が棒のようになってきたので、ポート脇にあるカフェ「Marina Cafe Laituri(ライトゥリ)」で一休み。Laituriとはフィンランド語で桟橋という意味。

 

 

 

 

ポッソはないけど、プッラと呼ばれる甘い菓子パンが数種類あり、どれにするか悩んだ末にフィンランドらしい「リンゴンベリー」のジャムのものに。

リンゴンベリーをフィンランドの人たちはよく食べる。

 

 

 

 

森林に自生するツツジ科の常緑低木で、小さくて赤い実がなっているのを摘んできてジャムにしたり、コーディアルにしたり、ソースにしたり。

甘さよりも強い酸味が特徴のベリーだが、フィンランドに肌がきれいな女性が多いのは(友達のおばあちゃんもツルツルだった!)リンゴンベリーのビタミンやポリフェノール効果じゃないかと思っている。

 

 

 

 

 

一瞬、席を離れていたすきに私のプッラを小鳥たちがついばんでいた。(後日談になるが、ヘルシンキでポッソを発見!リンゴジャムの入った耳?のあるドーナツは甘酸っぱくて美味)

街中のスタジアムでサッカー観戦。
サポーターと一緒に地元チームを応援する。

町のど真ん中にあるスタジアム「アルト・トルサ・アレーナ」でサッカーを観戦した。

先日、「スニラ・アアルト・ホームズ オープンハウス」でお会いした、日本人プロサッカー選手の田中亜土夢さんが出場されていると小耳にはさんだからだ。

 

 

 

 

 

亜土夢さんが現在在籍しているのは、コトカのFC KTP。背番号は37番だ。

対するチームはHJKヘルシンキで、亜土夢さんがフィンランドに来るきっかけにもなったチームでもある(2015~17年、2020~24年に在籍)。

 

自分自身、とりたててサッカーファンという訳ではないのだが、その土地を知るためにはホームチームが参加するスポーツ観戦はもってこいだ。

今回もホームチームの試合とあって、観客席は子供や家族連れ、若者、高齢者まで幅広い層で賑わっている。

このスタジアムは選手との距離が近くて試合が間近で見えるので、手に汗握る臨場感がいい。

地元のサポーターたちと一緒に声を張り上げて応援すると、同盟意識のような一体感が生まれるから不思議だ。

 

 

 

 

亜土夢さんのプレイはキレッキレで、昨日アアルトの話で盛り上がった文化人っぽい雰囲気の亜土夢さんと同一人物だとはとても思えないほど。

アスリートらしく無駄な動きが一切なくて、その美しく強靭な姿に惹きつけられる。

後で聞いたところ、通常はミッドフィールダーなのだが、欠場者が出てしまい、急遽、左サイドバックを守ることになったとか(運動量とスタミナが必須のポジション)。

しかも90分フルで出場していたからすごい。

 

 

 

 

ハーフタイムはフィンランド名物のソーセージ「マッカラ」を買いにスタジアム外の屋台へ。この長くて太いマッカラは炭や薪で焼くと香ばしくジューシーで、スポーツ観戦やBBQの定番アイテム。

サウナ内の熱いサウナストーンの上でアルミホイルに包んで焼く人もいるというから、どれだけフィンランド人がマッカラを愛しているかわかるだろう(フィンランドではサウナ内でビールを飲む人も多いので、マッカラをつまみながら飲む感じ)。そういう私もマッカラは大好物だ。

 

 

 

 

残念ながら試合は1対4でFC KTPが負けてしまったけど、周りのサポーターたちの熱狂にもつられて思いがけず熱くなってしまった。

世界中でスポーツ観戦が愛されるのって、そこにドラマあり、感動と興奮があり、選手への敬意あり、生の迫力ありで、世界共通の完璧なエンタメなんだと思わされる。

 

 

 

 

サッカー観戦が終わり、興奮も冷めやらぬまま撮影の仕事のためにヘルシンキへ戻る。

コトカから車で大体2時間ほどで、バスもあるのでアクセスは悪くない。

ただ、町から郊外へ移動する場合はレンタカーの方がおすすめだ。

コトカ周辺の東海岸と呼ばれるエリアは自然豊かで、素朴な町や村も多く、絶景サウナもあるようで、次回はもう少し長く滞在して探検したいと思う。

Staff Credit

Written by Yumiko Takayama

Photographed by Miho Kakuta

About

泊まるように暮らす

Living as if you are staying here.

食べる、寝る、入浴する。
家と宿、それらがたとえ行為としては同じでも、旅先の宿に豊かさを感じるのはなぜなのか?
そんなひとつの問いから、yadoは生まれました。

家に居ながらにして、時間の移ろいや風景の心地よさを感じられる空間。
収納の徹底的な工夫による、ノイズのない心地よい余白……。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅のような時間を日常にも。

個人住宅を通して、そんな日々をより身近に実現します。