Trip

Issue : 03

市川渚と旅と宿 vol.1
泊まると暮らすを行き来した、北海道ニセコ

泊まるように暮らす人・市川渚が綴る旅エッセイ。第一弾の旅先は「北海道ニセコ」。二泊三日の冬のニセコと、二週間長期滞在した夏のニセコ。泊まる、と暮らす、それぞれの旅を重ね見えてきた、まちと旅の魅力を彼女の視点でお届けします。

Profile

市川渚

ファッションデザインを学んだのち、海外ラグジュアリーブランドのPRなどを経て、2013年に独立。クリエイティブ・コンサルタントとして国内外の企業、ブランドのコミュニケーション施策の企画、コンテンツ制作、ディレクションに関わる。自身でのクリエイティブ制作にも注力しており、フォトグラファー、動画クリエイター、コラムニスト、モデルとしての一面も合わせ持つ。旅行と写真とインターネット、LINEのブラウンが好き。

  • 旅のきっかけのこと

    2022年4月の始まり。東京は春爛漫、桃色の八重桜がたわわに咲く街を横目に、私は北海道へと飛んだ。目的地はまだ雪の残るスノーリゾート、ニセコだ。

     

    旅のきっかけはひょんなことから。よく旅を共にしている友人がいるのだが、彼女がご両親と一緒にニセコの「坐忘林」に行くという。ただ、両親はスキーをしないから、スキー部分だけ合流しないか、ということだった。「冬服は衣替えして、既に仕舞ってしまったからなあ」なんてくだらない理由で迷ったのだけれど、出発2日前にふと「やっぱり行くべきだ」と直感的に思い、急遽飛行機のチケットを取り、ホテルを押さえた。

    冬の終わりの
    スノーリゾート、ニセコ

    ニセコ=外国人だらけ、というイメージを持っていたが、この時はまだ新型コロナウイルスの影響で入国制限が厳しく敷かれていたこともあり、外国人観光客を目にする機会はほぼなかった。というよりも、日本人を含めた観光客自体が非常に少なかった。コロナ禍は観光産業に色々な形の爪痕を残して行ったのは確かだけれど、混雑と待ち時間が何よりも苦手な私にはありがたいことでもあった。

     

     

     

     

    ニセコはさまざまなメディアでも取り上げられているとおり、スキー場の麓周辺を中心にここ15年程で海外資本の投資による急激な開発が進んでいる。コンドミニアムや一棟貸しのヴィラも充実しているし、「リッツ・カールトン・リザーブ」 や「パーク・ハイアット」などのラグジュアリーホテルも続々とオープン。旅のスタイルや求めるものに応じた宿の選択肢には困らない。

     

    この時は2泊3日と短い滞在でも、めいっぱいスキーを楽しむべく、宿はスキー場「ニセコグランヒラフ」に直接アクセスできるロケーションが魅力的な「SKYE NISEKO」を選んだ。冬シーズンをこの週末で終えるタイミングだったこともあるだろうが、直前予約だったのにも関わらず、ニセコのアイコンともいえる羊蹄山を眺められる部屋を手配することができたのも幸運であった。SKYE NISEKOはひらふ坂という坂道を上がった先にあり、景色の抜けは抜群だ。

     

     

     

     

     

     

     

    このSKYE NISEKOももちろん外国資本のコンドミニアム。販売価格を調べてみると、東京の一等地に建つタワーマンションに匹敵する価格帯で売買されていることがわかる。窓が大きくとられた部屋、シンプルモダンなインテリアはいかにも海外の富裕層に支持されそうな雰囲気。「Miele」のIHクッキングヒーターとレンジが組み込まれた立派なキッチンが配されており、カトラリーや調理器具も一通り揃っていて、長期滞在にも良いだろう。ただし、欧米人仕様なのか、バスルームの鏡の位置が高すぎて、身長157cmの私は前髪しか確認できないのが玉に瑕ではあったが(笑)。

     

     

    国内の他のスキーリゾートを名乗る場所は昭和の終わりから平成の初めにあったスキーブームの際に整備された施設が多く、併設されている宿泊施設も含めて、どこかノスタルジックな雰囲気の場所がほとんどだ。私はそれも嫌いではないのだが、海外資本によるヴィラやコンドミニアムが立ち並ぶニセコ・ひらふの街並みは、それらとは全く違い、英語が当たり前に通じる(というか英語で話しかけられる)環境も手伝って、まるで海外に来たかのような感覚を覚えた。

     

     

     

     

     

    朝は雪に覆われた大地と羊蹄山を照らす朝日とともに目覚め、日中は友人と合流してスキー三昧、夜は気ままに独り、ホテルのレストランに出かけたり、予約しておいた近隣のビストロ「KITCHEN」に出かけたり。リモートワークが始まりまもなく3年。夫婦2人、東京の狭い部屋にカンズメになる生活が続いていたこともあり、久しぶりの一人の時間をじっくりと噛みしめるように満喫した。

     

    帰り道は友人とご両親と合流させてもらい洞爺湖に寄り道。2泊3日の旅程はあっという間に過ぎていったのだった。

    再訪、夏のニセコへ

    そんな冬の終わりのニセコから帰ってきてすぐ「ニセコは夏も良いんですよ。大きなヴィラを手配するので、仲間を誘って、長期滞在でもいかがですか。」と友人から誘いを受けた。この友人はもう十数年に渡ってニセコに通い続けているニセコのベテランだ。

     

     

    昨年の夏は小笠原諸島・父島に長期滞在していて、ロングステイでしか得られない体験に味を占めていた私は、二つ返事で行くことを決めた。まさか1年に2度もニセコに行くことになるとは。2022年、夏の終わり。今度はまるまる2週間の長期滞在だ。

     

     

    友人が手配してくれた宿は「カントリーリゾート」という別荘地にある一棟貸しのヴィラ。冬に宿泊したSKYE NISEKOのあるひらふ坂からは車で10分とかからない場所だが、より静かなエリアだ。周囲はさまざまな大きさのヴィラが余裕をもって建てられている。ヴィラとヴィラの間のよく手入れされた芝生が美しい。定住されている様子のヴィラもちらほら見られたが、そのほとんどがオーナー不在時に貸し出されているようだった。

     

     

     

     

    滞在したのは中でも大型のベットルーム4つのヴィラ。1階にベットルームがまとめられており、2階には戸を閉めれば個室にもなる部屋が1つと天井の高い広々としたリビング、ダイニング、キッチン。LDKは窓が大きく取られており、朝は風に揺れる樹々の影が室内に落ち、室内に居ながらにして豊かな自然の息吹を感じることができる。晴れた日の夜には一面の星空が広がっていた。

    日常と非日常を
    行き来するような
    感覚の長期滞在

    滞在中は半分くらい仕事をしていたが、時間が見つかるとクルマを走らせて、道の駅で地元で採れた野菜や人気のベーグル店のベーグルを買ったり、パン屋さんへパンを買いに行ったり、湧水を汲みに行ったり。そんな大した料理をしていたわけでもないのだが、旅先で、その土地が育んだものを好きに料理して、気ままに頂く。こんなに贅沢なことがあるだろうかと、ある時ふと思ったのだった。都会とも田舎とも言い難い東京の隣の平凡な住宅街で育った私の目には、大地に近い暮らしがとても豊かに映る。少しずつ生活感が出てくるヴィラの中も、なんだか愛おしかった。

     

    普段、数日間の旅行であれば、レストランを予約したり、良い宿を手配したりして、その場所ならではのスペシャルな体験を詰め込む。冬に来たときは、どちらかというとそのパターンだったのだが、今回のような長期滞在では、現地でのスケジューリングに余白を持つことができるからこそ、日常と、非日常である旅のあいだを行き来するような感覚で滞在することができる。

     

    旅先ではいろんなものが気になって、その場その場で目に留まったものや場所についての歴史や経緯を調べながら旅をするのが定番なのだけれど、冬は一見さん的な観光客だった自分とはまた違う視点でこの土地を見つめている自分がいることにも気づくのだったニセコベテランの友人が色々な場所に連れて行ってくれ、人と出会いにも恵まれたことも大きかっただろう。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    休日は少し足を伸ばして洞爺湖でカヤックをしたり、近場のアンヌプリ登山をしたり。冬に尋ねた場所もいくつかあったが、深い雪が全てを覆っていた冬とは異なり、大地の表情の豊かさにも驚かされた。

     

    もちろん、実際のこの場所での実際の“暮らし“と長期滞在における“暮らす風“の滞在の間には大きな違いがあるだろう。何度足を運んだって、所詮、観光客は観光客だ。とはいえ旅で尋ねた余所者だからこその視点も、大切にしたいと思う。

    さいごに

    旅を重ねるたびに「あの人は元気かなあ」「あの場所はどうなってるかなあ」などと思いを馳せる場所がどんどんと増えていく。夏の長期滞在に誘ってくれた友人は、今も再びニセコに滞在中。彼からの便りや現地で繋がった方のSNSなどを通して、離れていてもその土地が身近に感じられるのは、本当に素晴らしいことだ。

     

    できれば、この冬もまたニセコに足を運びたいと思っているけれど、海外からのゲストを再び迎えることになることもあり、ほとんどの施設で100%を超える稼働率になりそうだというウワサが聞こえてきている。ガラガラだった先シーズンと同じ感覚での滞在は難しそうだけれど、私がまだみたことがない“賑やかないつものニセコ”がそこにありそうだ。

Staff Credit

Written & Photographed by Nagisa Ichikawa

  • Travel Vlog

    市川渚さんのYouTubeチャンネルでは、旅の様子を公開中。

    夏のニセコと、冬のニセコ、過ごし方の異なる二つの旅の様子を全9本のVLOGでご覧いただけます。

    “泊まるように暮らす”彼女の日々を、動画でもお楽しみください。

About

泊まるように暮らす

Living as if you are staying here.

食べる、寝る、入浴する。
家と宿、それらがたとえ行為としては同じでも、旅先の宿に豊かさを感じるのはなぜなのか?
そんなひとつの問いから、yadoは生まれました。

家に居ながらにして、時間の移ろいや風景の心地よさを感じられる空間。
収納の徹底的な工夫による、ノイズのない心地よい余白……。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅のような時間を日常にも。

個人住宅を通して、そんな日々をより身近に実現します。