Interview
Issue : 65
モデル / DJ ・エリーローズ|自然とアートに囲まれ自分に還る、サンクチュアリのような場所。
大きな窓の向こうに広がる緑、季節とともに移ろう光、鳥や虫の声。都心での暮らしを長く続けてきたエリーローズさんが出合ったのは、自然と近い距離で過ごせる住まいだった。好きな家具やアート、音楽、そして猫との時間。自分にとって大切なものに囲まれながら、心と体のリズムを整えていく。そんな暮らしの心地よさについて語ってくれた。
Profile
エリーローズ
モデル、DJ、コラムニスト。12歳で篠山紀信撮影の写真集でデビューし、『ViVi』モデルを10年間務める。2008年からDJとして国内外で活動。2022年には、自身の経験をもとにスキンケアブランド「Otonë(オトネ)」を設立。肌と心を心地よい状態に整えるセルフケアを提案している。
家に帰ることが、小さな旅になる
大きな窓の向こうに広がる、濃い緑。家のどちらを向いても木々が視界に入り、朝には鳥の声が、夏には蝉が、夕方になると虫の音が聞こえてくる。都内にありながら、ここには街の時間とは少し違う時間が流れている。
意外なことに、エリーローズさんが家を探していたときは、特に自然の中で暮らしたいとは思っていなかったそう。
「東京生まれ、東京育ちで、生粋のシティガールなんです。青山や表参道のあたりがずっと自分にはしっくりきていました。だから、こういう場所で暮らそうという発想自体、それまでなかったんです」
以前住んでいたのは、都心の真ん中。次の家を探すときにも、最初は利便性のいいエリアを考えていたという。ところが、条件に合う家がなかなか見つからない。10数軒を内見した頃、不動産会社から「エリーさんならきっと気に入る」と紹介されたのが、この家だった。
高い天井に、印象的な窓やアーチ。何より心をつかまれたのは、家と自然との距離の近さだった。
「初めて来たときに、鳥肌が立ったんです。ここで自分が生活している姿を想像したら、すごく幸せそうな自分が見えて。自然と調和しながら生活できることが、いちばんの魅力でした」
若い頃は、仕事場へのアクセスや移動のしやすさを基準に住む場所を選んできた。それが年齢を重ねるにつれ、自分が求めるものも変化していった。
「“余白”が欲しくなったんです。昔は休みの日に家にいても、今思えば全然休めていなかった。外に出れば人がたくさんいて、車が走っていて、知り合いにも会う。常にいろいろなノイズがあったんだなって、ここに来て初めてわかりました」
都心から少し距離があることさえ、今では心地よさのひとつになった。車を走らせて家へ向かう時間に、仕事のスイッチが少しずつ切れていく。
「運転している間に、お仕事モードから帰宅モードに変わっていくんです。家に着く頃には、自分に戻っている感じ。ここは本当に静かで、自分の声が反響するんじゃないかと思うくらい(笑)」
外の世界から少しずつ離れ、自分自身に戻っていく。エリーさんにとってこの家は、ただ帰る場所ではなく、日々の中で自分を取り戻す、小さな旅先なのかもしれない。
光と緑に身を預ける、別荘のような時間
エリーさんはこの家を「自分を整えるための家」と表現する。
「自宅なんですけど、ちょっとリトリートみたいな感じ。別荘という言葉も近いですね。でも、別荘よりもう少しカジュアル。みんなをたくさん呼んでワイワイするというより、自分ひとりを整えるための場所なんです」
それは、特別な予定を用意して過ごす場所ではない。むしろ、何もしないことが似合う家だ。
過ごしやすい季節には、テラスにリクライニングチェアを出して本を読む。ヨガマットを広げたり、食事をしたりすることも。オフの日にはあえて音楽をかけず、ただ窓の外を眺める。
「朝は鳥の鳴き声、夏なら蝉、夕方になると鈴虫の声が聞こえる。そういう音を聞いていると、本当に心が休まります。何もしないで、ぼーっと外を見ている時間も好きですね」
家の中にいても、自然の変化が時の移ろいを教えてくれる。朝日が入る部屋があれば、夕方の光が差し込み、サンセットが見える場所もある。
「西側の場所は私の中では“マジックアワーの部屋”。テレビは置いていなくて、プロジェクターにしているんです。夕日を見ながらワインを飲んだりしています」
光や風、景色に意識を向けることが、いつしか暮らしの一部になった。さらにこの家へ移ってからは、一日の始め方も変わった。
以前はぎりぎりまで眠り、慌ただしく支度をして家を飛び出すことも多かったが、今は出発より数時間ほど早く起きる。瞑想をし、レモンを入れた水や白湯を飲み、ヨガやストレッチをする。呼吸を整え、体が目覚めてから初めてスマートフォンを見る。
「朝のルーティンが、一日のムードやエネルギーを決めると思っているんです。だから朝をすごく大切にしています。必ず太陽の光を浴びて、体を動かしてからスタートします」
好きなものと長く暮らす、心地よいインテリア
「赤や黄色みたいな強い色は、ずっと見ていると少し疲れてしまうんです。ベースは自然に溶け込むような色が好きですね」
一方で、ものを増やしすぎないことも大切にしている。
「ごちゃごちゃしていると気が休まらないんです。断捨離もよくしますし、もう必要ではないものは、なるべく手放します」
受け継いだアートが、家の風景になる
そんなすっきりとした空間に、個性と物語を加えているのがアートの存在だ。
「アートピースって、置いただけで、そこの空間を彩ってくれる。だから、私の生活には欠かせないものなんです」
この家には、家族の記憶が宿るアートも多く飾られている。
父親が手がけた作品に加え、写真家ピーター・ビアードの作品も、そのひとつ。ピーター本人からエリーさんの母親へ贈られ、のちにエリーさんへと受け継がれた。作品には、母親へ宛てたメッセージも残されている。
アートは、この家を彩るためだけのものではない。空間に遊び心を添える作品もあれば、家族が過ごしてきた時間を伝える作品もある。どれも特別なものとして切り離されるのではなく、家具や音楽と同じように、今のエリーさんの暮らしの風景をつくっている。
「ここにいると、本当に疲れが取れるし、回復しやすい。私にとってサンクチュアリみたいな場所です」
pick up item

部屋でひときわ目を引くのが、
三宅一生が1980年秋冬に発表した「Plastic Body」シリーズのオブジェ。
女性の身体をかたどった彫刻的な造形は、衣服と身体の関係を探究した三宅の代表的な「Body」シリーズのひとつ。
同シリーズは後に世界を巡回した「ISSEY MIYAKE SPECTACLE:BODYWORKS」展でも紹介された。
ファッションでありながらアートピースのような存在感が、空間に力強いアクセントを添えている。
Editor’s Voice
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エリー・ローズさんの家に入ると、思い切り深呼吸をしたくなるような澄んだ空気が流れているのがわかります。それは自然に囲まれているからだけでなく、厳選されたものが並び、嫌なものがひとつも目に入らないというエリーさんのスタイルそのものがつくりだしている空気感だといえます。自分のことは自分で整える。そんな大人としての心得さえも感じる佇まいに“正しい家のあり方”ってあるんだな、と考えさせられました。
Wakako Miyake(Writer)
Staff Credit
Written by Wakako Miyake
Photographed by Eichi Tano