Interview

Issue : 63

Gallery Attic / Gleefulオーナー・三輪理|時間の深みを感じる、ヴィンテージ家具との暮らし

ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン、ジャン・プルーヴェ…‥。ギャラリーでも扱う、近代史に残る錚々たるデザイナーの椅子やテーブルなどが並ぶ自宅は、その高級さにもかかわらず、リラックスした雰囲気が漂っている。それは商売という視点だけではない、三輪さんの「この家具がたまらなく好き」という純粋な愛情が、空間に体温を与えているからだ。白とグレー、木の質感を基調としたシンプルな内装が、名作と呼ばれる家具の個性を力強く引き出している。

Profile

三輪理

20代から携わっている古着店「Gleeful」6店とコーヒー屋「Gleeful COFFEE」、高級ヴィンテージ家具を販売する予約制のギャラリー「Gallery Attic」を運営。ギャラリーの上階が自宅になっている。

家具が主役の空間を、自ら設計する

東京の高台にある、静かな住宅地の一角。

三輪さんの自邸は、1990年代の鉄筋コンクリート造の一軒家を、自身で考えながら改装した。

設計士には依頼せず、できるだけシンプルな箱のような空間に整えている。

「もともとは千葉に住んでいて、その頃は倉庫で家具を売っていました。

もう少し生活に近いかたちで見せたいと思うようになり、ギャラリーと住まいが一体になった場所を探すことに。

ここは2階がギャラリーで、3階が住まい。どちらも広さがあり、家具を置くための余白がありました。

白い外観も印象的で、ル・コルビュジエの建物のようでもあり、海外のリゾートのような雰囲気もあって。見た瞬間に、ここだと思いました」

南側の大きな窓からは、街の風景が広がる。

遠く高層マンションが立ち並び、川が流れ、空がひらけ、晴れた日は富士山も望める。

どの街とも特定できないような、異国的でもあるその景色も、ここに住む決め手のひとつになった。

一点ものだからこそ、自分のものと思える

古着に惹かれはじめたのは中学生の頃。

高校卒業後「好きなことで生きていこう」と決め、20歳で古着屋になることを決意した。

30歳で開業し、アメリカの古着を扱うショップをオープン。現在、6軒の古着店と1軒のカフェ、そしてこのヴィンテージ家具のギャラリーのオーナーを務めている。

「家具をスタートしたのも、古着の買い付けでアメリカに行っているうちに洋服だけ買って帰るのがもったいないな、と思ったからなんです。

椅子やマネキンなど、気に入ったものは全部持って帰ろうと始めたら、だんだん集まってきて。それで、その家具を使ったカフェを開きました」

  • ギャラリー名の「attic」は、屋根裏という意味。アメリカでは屋根裏に宝物や家族の思い出をしまう習慣があることから名付けた。

  • 手前にあるのはピエール・ジャンヌレがデザインした「ホックスロースツール」。組み立てにネジではなく、竹釘が使われている。

服だけでなく、家具も古いものに惹かれる。それも中学生の頃からの嗜好だった。

 

「新品はサイズも色も選び放題だけど、古物は、それひとつしかない。なので、気に入ったものを見つけたら、自分を待ってくれていたかのように思えるんです。新品のほうが機能的ではあるのですが、便利すぎると奥行きがないというか、そっけない気がして」

 

アメリカで家具を買い付けていた当時は1900年代のインダストリアルなものを中心に集めていて、それらは、この家でも照明などに活用されている。

 

そこからフランスを主としたモダンな家具に移行していったのは、扱い始めた当初はまだあまり注目されていなかったから。

「ヴィンテージ家具でも北欧とか、ミッドセンチュリー期のものとかいろいろあるとは思いますが、そもそもみんなが好きなものに乗っかるのが嫌なんです。

最初は、まだそれほど有名ではなかったピエール・ジャンヌレがいいな、と思って買い付けを始めました、そこからペリアンなどル・コルビュジエ界隈のものに派生。今、家のなかでもっとも気に入っているのは、壁にかかっているペリアンのシェルフ『ヌアージュ』です」

なかには数千万円する家具もあるが、特に気を使って生活はしていないという。

 

「気を使うくらいなら、欲しくない。実は洋服がそうで、ヴィンテージの服を着て、子どもを抱っこしたり、ラーメンを食べたりするのを躊躇するようになってしまった。気に入ったものを着るために買ったのに、ただ持っているだけなら意味がないと思って、それらの殆どを売って家具に変えました。家具のいいところはよっぽどのことがなければコンディションが悪くならないこと。使いながら、次世代に受け継いでいけるのもいいですね」

別荘のような時間を、日常に

古いものには新品にはない佇まいの良さがある。

経年変化という言葉があるように、長い時間が作り出すものには、唯一無二の貴重さも内包されている。

その経年の美しさを現代の生活に溶け込ませるために、内装自体は白い塗装壁に60cm角のタイルの床と、感じはいいけれど主張は強くない構成にした。

そして、職住が一体となった分、時間もできたことで散歩するという楽しみも増えたという。

 

「この辺りは坂が多くて起伏に富んでいる。すぐそばには古墳もあるし、緑も豊か。大きな家も多くて、その建物を見ているだけでも面白いんです」

4月に生後6か月を迎えた息子の子育てをしながら、近所をぶらりと散策する。

 

「そういう時間を持てるようになったのも、ここでの暮らしから得た豊かさだと思います」

また、将来的には1階のガレージの上にプールを作り、屋上には58坪の平らのスペースがあるので、公園を作ることも計画中だとのこと。

 

「“泊まるように暮らす”ではないですが、ここは半分、別荘のような景色と雰囲気があるので、そういった別荘要素を集約した暮らしをしてみたいんです」

今が完成ではなく、少しずつ変化を楽しんでいく。

それはかつての人々の営みを感じさせる、古いものを愛用する気持ちとも通じる。

 

時間を味方につけることで得られる、目には見えないけれど大事なこと。

ヴィンテージ家具との暮らしには、その時間の層が息づいている。

10代から夢中になった古着も、現在の暮らしを彩るヴィンテージ家具も、三輪さんにとっては地続きの表現だ。時代や価値に振り回されるのではなく、自分の感性で選び、使いこなす。その積み重ねが、この心地よい“家具を置くための家”を完成させている。

pick up item

ピエール・ジャンヌレの椅子

 

 

インド・パンジャブ地方のチャンディガール都市計画の公共施設のためにデザインされた椅子。

リプロダクトも販売されているが、素材感も雰囲気もまったく異なる。

 

「同じお金をかけるなら、ぜひオリジナルを手に取ってほしいと思います」

Editor’s Voice

  • 家のなかにあるのは名作家具ばかり。座るのも躊躇してしまうが、三輪さんは気負うことなく使いこなしている。その自然体が緊張感を和らげ、風通しのいい雰囲気を作っているのだと感じた。有名デザイナーのものだから、市場価値が高いから、というスペックに頼ることなく、自分が気に入ったものを集めた結果、できあがったしつらえからは、ものに対する深い愛情が伝わってくる。

    Wakako Miyake(Writer)

Staff Credit

Written by Wakako Miyake

Photographed by Eichi Tano

About

泊まるように暮らす

Living as if you are staying here.

食べる、寝る、入浴する。
家と宿、それらがたとえ行為としては同じでも、旅先の宿に豊かさを感じるのはなぜなのか?
そんなひとつの問いから、yadoは生まれました。

家に居ながらにして、時間の移ろいや風景の心地よさを感じられる空間。
収納の徹底的な工夫による、ノイズのない心地よい余白……。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅のような時間を日常にも。

個人住宅を通して、そんな日々をより身近に実現します。